越前和紙を代表する工芸紙のひとつである、墨流し。
平安時代に始まり、江戸時代には鳥の子紙や奉書紙などに模様がつけられました。
墨流しの技法は、今も改良を重ねながら連綿と受け継がれています。
墨流しは、水面に染料を幾重にも輪状に浮かべ、息を吹きかけたり扇であおいだりしながら模様を崩して複雑で繊細な縞模様を作り、そこに和紙をかぶせて模様を写しとる技法です。平成12年には、福田忠雄さんがこの技法の第一人者として福井県無形文化財の技術保持者に認定されました。
墨流しは、墨流し用の浅い水槽に水をはり、表面の塵を除去します。このとき水道水ではなく、和紙づくりに最適とされる地元の水を使うのが大事です。
風が入って埃が出たりしようないよう環境を整えてから作業に入ります。
使用する筆は、染料をつけるものと、染料を広げるために松脂にひたすものの2種類あります。染料用の筆には墨、紅、藍等の染料をそれぞれ含ませ、1本には松脂を浸し、両手に持ちます。はじめに染料のついた筆先を水槽中央部分の水面につけて染料を浮かべ、そこを素早く松脂の筆でつつくと、染料が円形に広がります。これを交互に繰り返すことで、同心円状の模様が水面に出来上がります。
模様が水槽いっぱいに広がったところで、息を吹きかけたり、扇子で風を送ったりして模様を崩し、複雑な縞模様に仕上げていきます。
模様が決まったところで、専用の鳥の子紙を水面にかぶせて模様を吸い取らせます。「模様を写しとる鳥の子も、自分たちで漉いています。実は、この鳥の子紙にこそ墨流しの模様をきれいに写しとる秘密があるんです。妻も一緒に紙を漉いているのですが、この鳥の子紙を作るのはとても大変で、今でも苦労しています」と福田さんは語ります。
福田さんは、今年で90歳。墨流しの技法を守り続け、様々な催事で技を披露してきました。海外に招待されたこともあり、自宅横に設けた体験教室には、国内はもちろん海外からの観光客も訪れているのだとか。ここにしかない越前和紙の墨流しの技を、世界に向けて発信しています。