越前和紙 千五百年の技と用具

一子相伝の技で、美しく漉かれた越前和紙の工芸紙。

越前和紙には美術工芸紙として、独自の技法が受け継がれています。
紙を漉く工程で職人が多彩な技法を凝らして紙を漉いていくもので、
その歴史は遥か平安時代までさかのぼるものもあります。

打雲 飛雲 水玉

見守ってくれた先代の技と名を、
後世に伝える。
株式会社 岩野平三郎製紙所 岩野 麻貴子さん

岩野さんは四代にわたり打雲、飛雲、水玉の技術を受け継ぐ職人です。昭和50年に先代が福井県無形文化財の技術保持者に認定され、平成28年に四代目 岩野平三郎を襲名。一子相伝の「漉き掛け」の技法を受け継いでいます。「漉き掛け」とは、漉いた地紙の上に別の紙料を重ねて漉いて模様にする技法です。打雲は、「漉き掛け」で鳥の子紙の上下に雲形模様を漉き重ねたものです。

模様として重ねる紙料は華と呼び、藍色や紫色に染めた紙を叩いてほぐし、水に溶いて紙料とします。「華は叩き方で変わってきます。ここで出来上がりが決まるので難しいですね」と語る岩野さん。昔から専用で使っている石の上で紙を叩き、思い描く華を作ります。打雲は、まず地紙となる鳥の子紙を漉き、続いて簀ごと打雲用の桁にはめなおします。このとき簀にのせる布は、絹の紗ではなく麻に柿渋を塗ったものを使用するのも特徴のひとつです。浅い漉槽に打雲用の華を溶かし、そこに地紙を挟んだ桁を入れます。少量をすくって水が落ちていく間に桁を揺するなど、水の動きを利用して独特の波模様を作ります。各色それぞれ2回ずつ汲み、二重の雲形模様を上下に作れば完成。主に和歌の短冊等に用いられます。

飛雲は、地紙にスプーンなどで華を散らす技法です。用具を使わず、手で華を落とすと小飛雲になります。水玉は、藁を束ねた用具の先に水をつけ、華を溶かした浅い漉槽で漉いた紙に水滴を落としていくことで、そこだけ色が弾かれて水玉模様が生まれる技法です。
「先代は、どこがダメだとかはあまり言わない人でした。でも、わからないことなどを聞くときちんと答えてくれて、私が練習をしていると、そっと見守ってくれていました」。そう三代目との思い出を振り返る岩野さんは、とてもやさしい表情をしていました。

  • 打 雲
    打 雲
    漉いた地紙の水がきれたところで、
    藍と紫の華を雲のように上下に漉き込む。
  • 飛 雲
    飛 雲
    地紙に華を落として、
     ちぎれた雲のように漉き込む。
  • 水 玉
    水 玉
    華を漉いた地紙の上に、水を含ませた
    藁束で水滴を落とす。

打雲、飛雲、水玉のこだわり

華
華は、鳥の子紙を藍染したものと、紅花で染めた紫色のものの2種類あります。叩解するときは、「山から取ってきた」という専用の石の上に紙を置き金属のハンマーで叩いていきます。できあがった華は、冷蔵庫で保管します。
浅い漉槽
浅い漉槽
華は、専用の浅い木の漉槽に溶かします。代々受け継いできた木の漉槽の手前側の縁は、模様をつけるために桁を打ち付けてきたところが年月とともに少しずつくぼんでいき、今では独特の丸みを帯びた形になっています。
麻(布)
麻(布)
鳥の子紙を漉いてから、打雲の模様をつけるための桁に移したとき、絹の紗ではなく麻の布に柿渋を塗ったものを使用します。「滑らかな絹ではなく、粗さのある麻を用いることで、波がでやすくなるんです」と岩野さん。
藁
藁を束ねた用具は、水玉を作るときに使用します。「初代が、一番やりやすい方法で作った用具なのだと思います。今、私が使っている藁の束は、3代目が初代の作ったものを真似て、繊細な藁を選んで作ったものなんですよ」。